【法と道徳教材】「あやまってすむことじゃない」が発問する法律学的所見-債務不履行
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謝ってすむことではないは許すことの大切さを説いた教材であり、起こった2つのことを判例みたいに記載すると以下の通りです。
〇謝ってすむことじゃないレストラン事件
(事件の概要)
原告Hは前日、被告であるレストランRに電話で予約をしていた。しかし、当日いざ到着すると店員の過失により、予約がされていなかった。
被告Rから謝罪を受け、原告Hのための席を確保しようとしていたのだが相当な期間が経過しても席が確保されなかったため、原告Hは契約の解除を申し出て、近くの他のレストランに向かった
〇謝ってすむことじゃない映画館事件
(事件の概要)
被告Bは原告であるOとx月y日に映画館で原告Oが指定した映画を見る約束をしていた。
しかし、被告Bは原告Oとの約束の存在を忘れて当日児童会の仕事を行っていた。
被告Bは児童会から帰宅後に一緒に映画を見る約束の存在を思い出し、直ち原告Oと連絡をとった。しかし、その日は映画公演の最終日であり、連絡を終えた段階ではどこも公演は終了していた。そのため、原告Oは「謝ってすむことじゃないと言われた」と言い放った、
………光文書院さんが作成した小学校6年の道徳の教科書の原文と見比べててもらうと分かると思いますが同じことを言っているはずなのに法律的な文章に直すと全然違うもののように見えますね。
「あやまってすむことじゃない」2つの約束をあげて本来お互いに許し合うことの大切さを説いた作品なのです。しかし、現実には約束を守れないことが許せないと思うときもどうしてもあります。そのような時にどのように折り合いをつけていけばいいのかを法律学的な視点から考えていきます。
1債務不履行とは
約束を守らないことは法律学上の専門用語では「債務不履行」と呼ばれています。
……とこれだけ言われても言葉の意味がピンと来ない方が大半であると思うので法律学上の約束のとらえかたについて事例にあげた「あやまってすむことじゃないレストラン事件」の約束の状況を例にとりながら確認していきます。
1-1レストランとの約束の分析
概要を見返すと、Hさんがレストラン夕食の予約の約束をしています。
法律学では、約束を分析したときに、まず、当事者が誰なのかを確認します。その上で、各当事者について以下の2つの視点から整理を行います。
- 約束を守るために何をしなければならないのか(債務)
- 約束によって、何をしてもらえるのか(債権)
これをレストランの予約の約束に適用すると以下のように整理されます。
〇レストランについて
- ・債務……約束を守るために席を確保して夕食を作らないといえない。
- ・債権……約束によってお金を受け取れる
〇Hさん家族について
- 債務……約束を守るためにお金を払わないと行けない
- 債権……約束によって予約席が確保され、夕食を、作ってもらえる。
そして、「レストランが夕食を作る」とういような約束を守るための行動を起こすことを法律学の専門用語では「履行する」と呼ばれています。
そのため、約束を守らないことは「債務を履行しない」と言い換えることができることから債務不履行と呼ばれています。
1-2債務不履行の3つの分類
そして、約束を守らないといっても民法上は以下の2種類に分類して取り扱使われています。
- 履行遅滞……やろうとすればできるにも関わらず正当な理由なく約束に遅れること
- 履行不能……約束をした後、当事者のせいで約束を守れない状況になったこと
- 不完全履行……約束の一部しか守っていないこと
「あやまってすむことでない」の事例で考えると以下のように対応します。
- 履行遅滞……レストランの約束
- 履行不能……映画館の事例が履行不能にあたります。
これらの取り扱いの違いについてはこの後の章で確認していきましょう。
※不完全履行については教材にでてきていないため、本ページでは取り扱いません
2.約束を守れなかったことを許しあえるか
教材の狙いのとおり、目的の通り完璧な、人間などおらず、誰だって何かしらのミスは行います。そのため、許すことは大切であり、管理人もいつも怒っている人よりは許してくれる人と付き合いたいです。
そして、民法の条文上でも、以下のような正当な理由があった場合は法律上許すべきであり、必要以上に責めるのは筋違いとされています。
- 不可抗力(419条)
- 相手も約束を守っておらず、お互い様と言える場合(同時履行の抗弁権、留置権)
また、民法さんは遅れてしまった理由の説明は約束を守れなかった側がきっちり行うするべきであると考えており、また心理学的にも謝罪と一緒に遅れた理由も言っておくと、仕方ないかと許されやすくはなります(カチッサー効果)
例:「予約を受けてはいたのですが伝え忘れてしまっており、予約席を確保できませんでした。」
しかし、状況によってはタイトルの通り感情的に許せないときなどもあるし、約束を守らなかったことによって実害が発生し、あやまってすむことじゃない場合だってあります。
この場合でも、守れなかった側を許せればベストなのだが、現実はどうしても落とし前をつけてほしいと思ってしまうこともあります。仮にそうなってしまった時にお互いに納得出来る責任のとり方について法律学的な所見を提示すようと思います。
3債務不履行による法律上の効果
約束に遅れてしまった場合、遅れてしまった側はどのような行動をすればいいのでしょうか?
道徳的な観点でレストラン側が実施していたことや管理人が思いついたのは以下の通りです。
- ・遅れてしまったことの謝罪
- ・約束した内容を迅速に実施
- ・(遅れることが予めわかっている場合)早い段階での報告
この他にも、法律学的な視点では他に以下挙げる3つの行動があるので以下に記載します。
3-1損害賠償
責任の取り方の一つには損害を金銭評価した上で「罰金〇円払う」というものがあります。(民法417条-金銭賠償の原則)
※なお民法では厳密には罰金ではなく、損害賠償と呼ばれています。
……とはいっても現実上全て相手が悪いということはほとんどなく、お互いに何かしら悪かった点はあるはずなのでその点に関してはお互い悪いよねということで許しあって相殺した結果が損害賠償の金額となります。(民法418条)
3-2(履行不能のみ)他の手段での埋め合わせ
もう一つの方法は、約束を守らないことで利益を得ていた場合、他の手段で埋め合わせを行うこと(民法415条-代償請求権の準用)
例えば、映画館事件の状況で仮にBさんがOさんから事前にチケット代金を受け取っていた場合は、別の日に別の映画をみることで埋め合わせを行うということで落とし前をつけることが考えられます。
3-3契約の解除(民543条)
最後の一つはである契約の解除は要はキャンセルのことなので、感覚的にイメージはできるとは思いますが、法律学的には以下のように定義されています。
「契約締結後に生じた一定の事由を理由とし、契約の効力を一方的になくす意思表示」(民法540条)
レストランの約束についてもHさんが約束を一方的にキャンセルして近くの他のレストランに向かいましたが、これも約束を守ってくれなかったことをもって約束の解除をしています。
3-3-1ドタキャンはできるのか?
Hさんは家族は丁寧にレストランの様子を見てから即座にキャンセルしていたのですが、約束を守られなかったらドタキャンをするということも頭に浮かんでしまいます。相手が約束を守ってくれなかった場合、ドタキャンをすることはできるのでしょうか?
民法さんの考え方によると、相手が約束を守れなかったとしても、常に誠実であるべきとされています。(民法1条)
そのため、誠実性の点から約束に守れなかったからといっても何をやってもいいのではなく、具体的には債務不履行の種類によってドタキャンの可否が別れています。
- ・履行遅滞の場合……相当な猶予期間をあけて、それでも約束の内容を守ってくれる素振りがなかったらキャンセルする(民法541条、542条)
- ・履行不能の場合……ドタキャンしてもOK(民法542条)
この約束のキャンセルの取り扱いは待つ意味があるかどうかで分けています。例えば映画館の事例の場合はOさんがいくら待っても映画の公開はどこも終わっているので、一緒に指定した映画を見れることはないため、履行不能では待つ意味がないためにドタキャンしても道徳的な問題はないといえます。
3-3-2約束をキャンセルしたら……
約束をキャンセルしたら、約束は最初からなかったものとして扱う必要があります。
そのため、具体的には以下の二つの効果が発生します。
- ・まだやっていいものはやらなくてよくなる
- ・すでに実行したことはやる前の状態に戻す必要がある。(原状回復義務)(民法条545条)
4まとめ
本ページで言っていたことの内容をざっくりとまとめると以下の通りです。
- ・お互いに許し合える許しあえるのがベストだよ~
- ・本人にどうしようもなかったり、約束守ってないのはお互い様……という状態で責めるのは違うよね~
- ・許せないという状況で折り合いをつけるならか金で解決するか埋め合わせをしよう!!
- ・約束を守っていなかったらキャンセルもできるけど、ドタキャンはあまりよくないよ~